人間。
セイガとカイの父親。
従ってリネの夫。セイガはリネとの子供であり、カイはシンキの用意した怪奇卵子との子供である。
朽ちた波の正体である。
朽ちた波となった彼の姿は言うまでも無くグロテスク。
あらゆる形の彫刻のようなものが重なり合っている。
豊かなる光輝と華麗と辛辣と幻想。
その美しさは、カイを魅了し、惚れ込ませていた。
つまり、カイが憧れた純粋な生命の美しさ、歓喜に満ち溢れていたのだ。
狂気に満ちていると感じ、恐ろしさや嫌悪を感じる者がほぼ全てであったが、カイは決してそうは捉えなかった。
大胆で狂熱的で、原始的熱情に輝いているように思えた。だから、カイは憧憬を抱いた。
何も血の繋がりがあるばかりではない。レリシスの持つ「生命の喜び」への渇望を、カイも同様に持っていた、それだけの話だ。
レリシスの人類殲滅は、審神者による独断で決められた。
止めるべきという巫女の意見は、一切聞き入れられなかった。
通称‘朽ちた波’は、人間に対して100%の感染力と100%の致死性を持ち、対象と被験者の皮膚との物理的な接触感染以外では感染せず、ヒトからヒトへ感染が広まることはない。
感染した被験者に見られる身体的な初期徴候として、目眩、貧血、頭痛、皮膚障害があり、それらは次第に重くなる。
また、精神的な徴候として、
集中力の低下
でたらめな会話
記憶喪失
幻覚
幸福感
誇大妄想
緊張病
不適切な感情反応
等が見られる。
多くの場合、感染してから1時間程度で身体中の皮膚がひとりでに裂け始め、傷口からは朽ちた波に類似した形状の腫瘍が湧き出してくる。
傷口を塞ごうとも力を込めてすぐに再び裂け、傷口を治療することは不可能である。
被験者はそのまま、出血多量によって死亡する。
魁は物語の終盤まで、自身の父親は英雄だったが、何者かに殺されたのだとずっと思い込んでいた。しかし実際には朽ちた波となって、自身をも克服した魁の最後の敵手となっていたのだ。
憎むべき敵が、救うべき家族に裏返るその瞬間。
リネにカイを預けたレリシスにも、どうしようもない事情があったのだ。
朽ちた波になること自体が、彼の贖罪だったのである。
彼は息子へ執着しており、その葛藤からは人間臭さ、恐怖と哀愁が感じられる。
